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甘えたで無邪気で、ちょっと頼りなくて。
でもでも実は、底の知れないくらいの慈愛を持つ人。
誰のどんな罪さえ許し、
さあおいでと包み込んでしまえるアガペーの申し子。
生まれが生まれだ、そうでなくてはならないのだと、
そんな立場なのだと思ってのこと、
出来る限り 支えて上げたいとして来たが、
そうではないのだと、
そんな順番ではないのだと 気がついて
受け入れた者をずっとずっと見守り支える強さも持ち合わせ、
限りなく柔軟な、
つまりは折れない強さというものを体言しているキミなのだと、
それに気づいたのは いつだっけね。
聖なる存在と崇めたり畏れたり、特別視はしないでいてくれて。
慕うように仲よくしてくれたその陰で、
黙って見守っていてもくれたキミ。
私が自分に厳しいところ、ようよう把握してもいて、
彼から甘える形で甘えさせてくれていたのだと
やっと気づけたのも、本当に本当に最近になってからだった。
バカンス先の小さなアパート。
同じ屋根の下には若い世代も多い、
そんなこんななご近所様におかれましても、
まだまだ お元気に起きておいでの、宵の口のよな時間帯だったれど。
そんなの知らない、関係ない
何とはなくのこととはいえ、
最愛の人との いい雰囲気へとなだれ込んじゃったんだもの。
たとい、形而上学的な尊厳もある存在だとはいえ、
今は生身でのバカンス中だし、
こればっかりは どうにもこうにもしょうがない。
それに 宵の口だって方が都合はいいかも。
咄嗟に蜜声が零れても、深夜の静謐の中へと落とすのよりは、
ずんと誤魔化しも利くだろし…なんて 姑息周到なことは、
全くの全然思ってもいない、
こっち方面の実践におかれては、まだまだ初々しい最聖のお二人で。
『明かりを、あのあの、消してくれないと…』
恥ずかしいよぉと 掠れそうな声で訴えたブッダ様。
そんなことをば わざわざ口にしただけでも恥ずかしかったのか、
それはすっきりとまとめられてた 釈迦牟尼様の尊い螺髪が、
二人が その身を重ねての、横になってた お布団の上へ、
その深色で塗り潰すかのよな勢い、
豊かでつややかな髪の海が一気にほどけてあふれたほどで。
自分の身が示したそんな反応までもが更なる羞恥心を煽ったか、
や〜んと白い双手で口許を覆ってしまう伴侶様なの、
「うん、判った。」
さすがに見かねた…というか、
や〜んの気持ちのほうが嵩じてしまっても何なのでと、
上体だけを起こして電灯から下がっていた紐を引き、
かちかちりと明かりを消すイエス様だったのは 言うまでもない。
「…ブッダ。これでいい?」
「〜〜〜。///////」
わざわざ訊くかというツッコミは出なかった。
その代わり、
天井へ向けて手を伸ばした動作により、
一旦剥がれた恋人さんの温みが戻って来たの、
待ち兼ねたような手早さで 嫋やかな腕が伸びて来て。
再びこちらのシャツに掴まりながら、
微かながら“くぅん…”という鼻声まで聞こえたのが、
イエスにしてみれば意外な大胆さでしかなくて。
ぐいと引き寄せられた不意打ちへ“おおう”と驚きつつも、
その胸の内にては 盛大にときめきを覚えていたりする。
“でも、明かりをすっかり消しちゃうのは残念なんだけどね。”
イエスとしては、せめて豆電球だけでも点けてたい派。
ただ眠るだけならともかくも、
これから深めるのは互いへの愛咬で。
愛しい人が感極まっては ついつい我慢し、
そうやって見せるのだろう悩ましげな顔やら所作やら、
いわゆる喜悦や苦悶が綯い交ぜとなった媚態の数々を、
眸で見る格好でも堪能したかったのに…と思う辺り、
すっかりと オトコノコの感覚が身についてもおいでならしかったけれど。
“でもなぁ…。”
此処まで恥ずかしがってること、
何でどうしてと強引なおねだりなんぞした日には、
そんなにお喋りしたいのならば、
明かりを点けてもいいんだよ、なんて
すっかりその気が吹っ飛んでしまい、
しかもしかも、せっかくのムードをよくも吹き飛ばしたねと、
そうなったことへの憤懣ごと
深瑠璃色の双眸が斜めに座ってしまうブッダかも知れぬ。
そんなこんなという つや消しなこともまた、
あっち行け行けと意識のすみっこへ とっとと追いやって。
「…いえす?」
ちょっぴり戸惑うような甘いお声に じんとするイエスだったりし。
もうもう、キミが明かりを落とせと言ったんじゃないの。
なのに、私がどんな顔しているのか判らなくて、
どこを見てるの? どうしたの?と、
ややもすると不安そうな声になってるところが、
何ともかんとも最強に可愛い如来様でvv
ん? なぁに?
此処にいるよと こそこそり、
掠れさせた声でそうと訊いておきながら、
そおと手を這わせた頬へ そのまま先触れのキスをして。
その感触にひくりと震えてしまうのは、
まだまだ初々しいからだと重々判っているのだが。
そちらも無意識のことだろう、
お揃いのシャツ越し、
それはまろやかな温みをおびた愛しの君が、
組み敷かれたままの身を ふるるとわななかせると、
それが微かな抗いにも感じられ。
怖がらないでと宥めたくって、
花びらもかくやという瑞々しい唇へ、
愛しい愛しいと恭順を込めての口づけを捧げる。
「……ん。//////」
二人の周りを埋めている豊かな深色の髪や、
そおと抱きしめた嫋やかな肢体から、
甘い杏の香りが匂い立ち。
さっき感じたわななきを乗せた腕が、胸が、
こちらへしゃにむにすがりつくのが感じ取れ。
息継ぎするよに薄く何度か、唇が剥がれたその狭間にて、
その口許に安堵の微笑が、淡く浮かんだイエスだったりし。
「ん、んん…。///////」
敷いたばかりの布団はどちらも、
安価なことが売りな大型店舗で買い求めた代物で。
とてもじゃないが そりゃあ粗末な褥(しとね)だが、
いいお天気の日には、干し場が使えなくとも窓辺から、
ブッダが頑張って干して干して
ふかふかにしてくれている優しいやわらかさ。
互いを求めてのこと、もつれるようにぎゅうと抱き合い、
「ぶっだ…。」
さりげなく背中を浮かせる格好で 手伝われてのこととはいえ、
相手のシャツを剥ぐのも少しは手慣れて来たイエスだが。
もどかしそうに頬擦りをされて触れる、髭の感触のくすぐったさや、
肌をまさぐる指先やもどかしげなキスが染みてきて届く熱の甘さ。
そこへと彼からの性急な“欲しい”を感じ取っては
こちらもその肌が内から熱を帯び。
そのまま理性ごと溺れるのが怖くてか、
そのくせ、もっともっととねだってしまう気持ちもあること、
我なりに恥ずかしいと思うてか。
悩ましげに身をうねらせてしまうのがブッダなら、
「あ…んぅ…。/////」
相手の背中へすがりつき、
シャツを掴む やわらかな手が時折震え、
慎ましやかながらも“欲しい”と示されるのを感じとっては、
こちらもまた 胸の奥からあふれ出る甘い熱へ
体の芯からしびれるほど深々と、感じ入っているのがイエスであり。
それは永きにわたり、何物にも触れさせずにいた恋人の肌は、
何処も此処もしっとりやわらかで
そこもここも味あわねば気が済まぬ。
ついのこと、歯止めが利かなくなって、
絖絹の肌へ強く吸いついてしまうこともあり、
「あ…っ。/////」
そんな悪戯へ ふるると敏感に震え上がる彼なのを、
密着した肌越しに感じとり。
怖がらせてごめんなさいと思いつつ、
でもでも唇での愛咬がどうしても止まらない。
頬へとかかる甘い吐息は、はあはあと それはせわしくて。
きっと含羞みから追い上げられての鼓動も激しく、
その尊い胸も張り裂けそうになっているのだろうに。
そんなこんなに追い上げられて、
きっと ずんと辛そうな表情になっているのだろうに。
そんなお顔を こそりと間近に、
透かし見たくもなる衝動も もたげてくるから、
胸のうちの何処かにいる幼いイエスには、
そんな魔性じみた感覚が ひりひりと恐ろしくてならなくて。
でもでも今だけは、
そんな罪深ささえ 興奮の素因でしかない
そんな蠱惑に満ちた存在と化したブッダを
誰にもやらぬと強く抱きすくめ、
甘咬みしたり、キスしたり、
むしゃぶりつくよにただただ求めるばかりの自分であり。
“私が、
この手で、この眸で、
彼をそんな存在へと貶めてしまったの?”
いや違う、それは違う。
みだらな強欲という罪に染まっているのは、自分の魂だけ。
ブッダは ただただ気高い慈愛で受け止めてくれているだけ。
限りなく尊くて優しい、そんな心と体とで、
迷える恋情を受け止めてくれているだけ。
誰をも拒まぬ、罪さえ受け入れる、そんなアガペーをつかさどる私を、
そんな私であることを判った上で求めてくれた。
深い慈愛とそれから、
私にだけという 甘くて切ない初々しさとで
混乱しつつも戸惑いながらも、深い尋にて受け止めてくれた人。
大切にしたい、滸がましいけど守ってあげたい。
でもでも、今だけはごめんなさい
子供みたいに頑是なく甘えるの、許してほしい。
欲しい欲しいと、常以上に貪るのを。
勿体なくもキミをこそ、求めるのを。
そんなこんなをこっそりと、
胸のどこかに抱えたまんまで。
愛しくてならない人の、
甘いほどにやわらかな肌と
どこまでもしなう麗しの肢体とを、
余すことなく抱きすくめ、
キスで埋めんと唇を這わせておれば、
「あっ、あ…っ。」
触れられる側、抱かれる側だ、
ところどこでは、感じる何かもあるのだろうに、
それでも くうとこらえては やり過ごそうと耐えて耐えて。
そんなブッダが、だがだが、
不意にその身を大きく跳ね上げている。
“…何これ。何だろ、今の。//////////”
もしかしてこれらが 悦いという感覚か、
ぴりりと淡い痺れのような感触が走り、
それが引いてく端から、じんわり広がるのが甘い波。
肌の下を、背中の芯を、
熱を伴っての縦横無尽に駆け抜けては、
総身の端々、指先やつま先まで達する 激しくも甘い感覚に。
翻弄されるのが怖くてたまらず、
向かい合うイエスへ
ただただ しゃにむにしがみついているばかりで。
いいのかな、私ったら何もしてないぞ、と
思わないでもなかったけれど、
ああでも、何をしたものかが残念ながら判らない。
双腕を広げ、その身を開いて受け止めて、
ぎゅうと抱きしめ、それからキスして…。
イエスの雄々しい腕にくるみ込まれ、彼の重みを感じつつ、
時折 甘く掠れた声に混ざってのこと、息が荒くなるのが届くのは、
私へ何かしら感じてくれているからだろかとドキドキし。
目眩いがするほど気持ちいいキスに翻弄されて、
このまま甘えていていいのかな、と、
流されたそのまま、気がつけばもうもう。
愛しいキミからのキスや愛撫が、
優しくも激しい情をくれるから、
とめどない“好きだよ”で満たしてくれるから。
それを全て、余すことなく受け入れるので忙しく、
総身へひたひた広がる甘い蜜香に頭も酔いしれていて、
何かするどころじゃあないくらい。
そんなところへいきなり襲い来たのが
比すもののないほど大きな刺激
ようよう思えば、それは愛咬のついでのようなもの、
イエスの舌先が ちょろりと、掠めるように舐め上げた感触で。
特に秘してたところでなし、
シャツを剥がれれば、
白い肌の上、緋色のそれはどうしたって目につく処でもあり。
妙齢の女性じゃあないのだと、意識さえせずにいたものが。
朧げな感覚の中、それでも来るぞという予測が出来てたものが、
これはそれの遥か上、
あっと言う間もなくのこと、
全身を熱湯のような奔流が荒々しくも駆け巡ったような、
そんなまでに いきなりで激しい何かに襲われていて。
「…ブッダ?」
「あっ、あ…あっ。////////」
唐突にみせた大きな反応には、イエスの側でもハッとしたものか。
どうしたのという案じの声を掛けつつも、
此処がどうかしたのかと指先でスルリと触れたものだから、
さっきよりも高い声がついつい飛び出している。
少し濡れたその上から 指の腹でツルリとやわく撫でられただけなのに、
総身がカッと熱を帯び、血脈が泡立ち、背条が引きつる。
それらから下腹へ、じゅんというもどかしい熱が絞り出される。
顎の先をのけ反らせるほどに、びくりと震えてしまい、
「あ、えと…。///////////」
自分でも今のはとんでもない反応だったなと思ったし、
イエスも びっくりしたものか、
触れてた手を あっと遠ざけて
少しは暗さに慣れて来た眸で、こちらを伺い見ているらしく。
「此処、いやなの?」
「えっと…。//////」
あらためて訊かれて、あらためて思い直すに、
イヤ、というのじゃないと思う。
……え?
いやそのあのあの、何というのか。あのえっと。///////
全然の全く 痛かったんじゃないし、
無理から触れられたとかいうんじゃなし、
屈辱だとか不快だったとかいうわけでもなくて。
他のところでもほわほわと感じてた
あのその“悦い”というのと同じ波紋が、
そっちもやっぱり大きかったが
じんわりじんわり総身へ広がったのが判ったし。
ただ、
いやではないと同時に、
押さえ込むのは難しい級の、途轍もなく感じやすい処だとも思う。
これまでだって、シャツが擦れたりしてたはずなのにね。
好きな人からねぶられただけで、
他の肌より桁違い、こんなまで大きな感覚が襲うだなんて、
そんなの思ってもみなかった。
「えっとぉ。///////」
励ますように頬を撫でられ、
急かすこともないままに、
ブッダからの声を待ってくれているイエスだと気がついて。
「今のはあのね、我慢したい“イヤ”だったの。」
「…えっと?」
「だからあのあの、///////」
尚の言葉を探そうとする気配を感じて、
ああそうだったとイエスが思い出したのが。
この如来様、何につけても生真面目で律義だから、
もしかしてしっかり答えねばと構えたかもしれないということで。
“…そんな言葉イジメしてどうするの。”
そんなの本意じゃあないんだ、いかんいかんと、
ハッとしつつ、素早く読み取ったイエス様、
「今はまだ早い?」
こしょり、そんな風に訊いたものだから。
あまりの不意打ち、え?と息を止めたブッダ様、続いて意味が通じてか
そうなの、うんうんと
素早く頷いたのがまた、
何だか可憐で キュンとしちゃったイエス様。
「判った。じゃあ、乳首は まだ不可侵領域だということで。」
「…っ。いえす〜〜〜。////////」
そんなはっきり言わないでよと、真っ赤になったブッダ様。
イエスの側はまだ着ていたシャツにお顔を擦りつけ、
ひたすら“や〜ん/////”と含羞みなさる。
“一皮むけば どんな美人も腹の中には汚物の塊と、
もっと具体的に言える人なのにねぇ。”
こっち方面はまだまだ初々しいみたいです。(おいおい)
「…ブッダ、ごめん。もう言わないから。」
「〜〜〜〜。////////」
ほらねえ、お顔を見せてと、いい響きの声で囁けば。
しばらくほど ぶんぶんとかぶりを振っていたものが、
さすがに大人しくなってから。
「〜〜〜〜。」
「え? 何なに?」
くぐもってしまった呟きを、
ねえねえもう一回と、さらさらの髪を梳きつつ尋ねれば、
イエスも早く、脱いでくれなきゃヤダ
シャツがあった方が背中へ掴まりやすいけど、
でもね、あのね、
私もやっぱり、キミの肌へと直に触れたい。
「あ…。//////」
もしょりと小声で告げて来たブッダだったが、
でもね、あのね、
「………だったら、尚更、
シャツから手を放してくれないと。」
「〜〜〜〜っ。////////」
離さないという掴まりようの最強版、
シャツの生地をそれぞれの指にからめるようにし
そうやっての ぐうをきゅううと握り込んでたブッダ様。
自覚がなかったか、あわわと慌ててしまい、
全身をびくくっと撥ねさせたのが、
イエス様に隠すのが大変な苦笑を誘ったのでありました。
知らないところをもっと教えて、
知らなかった声を、もっと聞かせて……
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*おかしいな。まだ終わりません。
こんな詳細に書くことなかったのかなぁ。
その割に、何かちっとも艶っぽくなくて、
いっそ笑えるやり取りまるけだし。(大笑)
こういうのへも書き手の品性が出ちゃうんですかね。
というわけで、もちょっとR-15、続きます。(う〜ん)
めーるふぉーむvv


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